「すごい図鑑」シリーズでは、個性的な視点から整理された図鑑や、写真集に近いものまで、おもしろい図鑑を紹介しています。
「日本のことばずかん」とは
この図鑑を監修されている神永曉さんは、長年にわたり辞書編集者として多くの辞書制作に取り組んでこられた方です。
また、神永さんは「辞書引き学習法」を提唱するこども言葉研究所の共同創設者でもあります。
この記事では、そんな神永さんが監修されたこの「日本のことばずかん」について紹介していきます。
「いろ」「かず」「そら」の3種類が発売されているこの図鑑は、「日本のことばずかん」というタイトルのとおり、各テーマに合わせた日本語ならではの多種多様で美しい表現を学ぶことができるとても貴重な図鑑です。
この図鑑を書店で見つけた時に、使われている絵や写真の素晴らしさに、とても感動しました。
様々なことばや表現が生まれた背景を説明するための、美しい写真や日本絵画の数々。
ただことばの意味を知るだけでなく、その言葉の背景にある世界観や情景を知ることができるこの図鑑は、子どもたちの記憶に色濃く残るのではないかと思います。
この図鑑の存在をひとりでも多くの人に伝えたい思いから、これを機に当サイトにも「すごい図鑑」シリーズを展開できるカテゴリを新設することにしました。
それでは各図鑑の中身について解説していきます。
日本のことばずかん「いろ」
- タイトル
日本のことばずかん いろ - 出版社による紹介文
名作に登場する、色にまつわる美しい日本語に北斎の絵や写真などが添えられた、子どものことばの力を育てる新シリーズ!監修は辞典編集一筋の神永曉氏。
「ちはやぶる 神世も聞かず たつた河 から紅に 水くゝるとは」(在原業平「古今和歌集」より)
この有名な一首の、「からくれない」ってどんな色?くれない、あかね、しゅ……。赤といっても日本にはたくさんの色があります。
茜という植物の根や、紅花の花から取り出した色など、古くから自然のなかに色を見いだしてきた日本人の、自然と親しむ心を「いろ」から知ることができます。
ジャパンブルーとよばれ、日本を代表する色とも言われている「藍」にしても、藍からつくりだされる色ひとつひとつに、瓶(かめ)覗(のぞ)き~水色~浅(あさ)葱(ぎ)色~縹(はなだ)色~紺色と、微妙な青の違いを楽しんでいた、豊かな文化が感じられます。
「赤」と聞いて思いうかべるのは、どんな色?
くれない、あかね色、しゅ色・・・・・・
どれも「赤」を表すことば。
色の名前には、
身近なしぜんや、大切にしてきたものへの
人びとの思いがこめられている。この本を開いてみると、
本文より
「色」のおくに、ゆたかな心がみえてくるよ。
日本語には色の表現がたくさんありますが、その繊細なちがいや、そのことばの元となった生きものや植物のことについて正しく理解できているかと聞かれたらどうでしょうか。
「日本のことばずかん いろ」は、「しっ黒」「あい色」「とき色」などの日本語についてくわしく教えてくれる図鑑です。
その中身について、以下で少しだけ紹介させていただきます。
あい色の説明に、葛飾北斎の富嶽三十六景 神奈川沖浪裏の絵を見開きで大きく掲載。
このページの後には、藍染の工程、色の濃さによる表現の違い、さらには同じ染め物文化としての他の色が紹介されていたり、ひとつの言葉をきっかけとして広がる世界がとても心地よいつくりです。
「とき」は漢字で「朱鷺」。
とき色とは、少し黄みがかった淡くやさしい桃色のことらしいです。
言葉で説明されるよりも、大きな写真で実際の色を教えてくれるこの図鑑を見て、子どもたちは何を感じるのでしょうか。
さらには、「江戸時代までは日本中で見られる鳥だった」という文を読み、一時は絶滅に近い状態になってしまったこと、現在は少しだけ個体数が回復している状態であることなど調べれば理解が深まります。
子どもの興味にあわせて、親子で一緒に調べたり、家にある図鑑と繋げたりすることで、どんどん世界が広がっていきますね。
こちらは同じく、鳥にまつわる色を紹介したページ。
鳥の図鑑で見たことのある鳥であっても、色についての切り口となれば、新たな発見がありますね。
この写真の中央にあるカワセミの写真。
「すい色」の漢字である「翠」はカワセミにあてた漢字だそうです。カワセミはその美しさから「飛ぶほうせき」と呼ばれているとのこと。
宝石・鉱物の図鑑にある「翡翠(ひすい)」とつなげることができますね。
日本のことばずかん「かず」
- タイトル
日本のことばずかん かず - 出版社による紹介文
「数」と聞いて思いうかべることばは、何だろう?もののりょうや時間、たんい、わり合…。「数える」ということから、幾星霜、数多のことばが生みだされてきた。そこに、人びとが数を大切に使ってきたこと、ねがいや遊び心までも感じることができるんだ。この本を開いてみると、「数」が表す世界の広がりが、見えてくるよ―。
「二つ返事」「千両役者」「三途の河」・・・数字が入った日本語表現の数々。
その言葉は知ってるけれど、そもそもの意味は?
この「かず」の図鑑をパラパラとめくっただけで、普段目にする言葉の意味を深く理解していないことに気づかされます。
さて、この「かず」の図鑑の表紙になっている絵画はどんな「数」と結びついているでしょうか?
答えは「一丸になる」です。
「一丸」は、「心を一つにしたかたまり」のこと。
読めば読むほど数の世界に引き込まれるこの図鑑について、一部を紹介していきます。
「でんとう文化から生まれたことば」というページには、歌舞伎や茶道などの伝統文化の世界から生まれた言葉がたくさん。
「一目おく」は、「相手がすぐれていることをみとめ、うやまう気持ちをもつこと。いごで、弱いほうが先に石をひとつおいて、勝負を始めることから生まれた。『一目も二目もおく』ともいう。」という説明です。
得意なものを表現する「十八番」は歌舞伎の世界から。野球でエースナンバーが18番である理由などと結びつけて親子で会話をすると楽しそうです。
「三ずのかわ」という言葉の紹介には、明治の浮世絵師、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の地獄極楽めぐり図が大きく掲載されています。
死後の世界、天国や地獄という世界への興味関心が豊かな子どもにとって、引き込まれそうな世界観です。
「三途」は「三つに分かれた道」のこと。三つの行き先とは・・・?子どもが興味を示したらどんどん広げるチャンスですね。
「しぜんと数のかん係を見てみよう!」というページには、「千山万水」「三寒四温」など自然と関連する表現がたくさん。
「うちゅう空間に存在するすべてのもの」を意味する「森羅万象」には、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の鳥獣花木図屏風(ちょうじゅうかぼくずびょうぶ)があてられています。素晴らしい図鑑です。
この他にも「いかの数え方が1ぱい、2はいである理由」など、夢中で読んでしまう内容です。
日本のことばずかん「そら」
- タイトル
日本のことばずかん そら - 出版社による紹介文
清少納言の『枕草子』にも登場する「あけぼの」とはどんな空の様子を表す言葉でしょうか。
「あけぼの」とは夜が明けようとするころのことを表しますがほかにも「あかつき」や「東雲」などという言い方もあります。
日がのぼる一瞬を表現するだけでも数えきれないほどの豊かな日本語の世界。
言葉を獲得することは表現する力を大きく育むことにつながります。
シリーズ第一作は、自然を見つめる心も養うことを願って「そら」にまつわる「月」「雨」「雲」などの言葉を集めました。
そしてその言葉のイメージをさらに広げるビジュアル、「雷鳴」には俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を添えるなど美しい絵画や写真とともに、わかりやすく紹介しております。
「いろ」「かず」に続くのは「そら」。
空と関係する日本語表現・・・「いろ」や「かず」に比べると、どんな表現があるのかな?と一瞬考えてしまいました。
でも中を見て、すぐに「そら」に関する表現がたくさんあることに気づきました。
「雷鳴」ということばの紹介ページには、芥川龍之介の杜子春の中にある一文を用いてその情景を結びつけ、俵屋宗達(たわらやそうたつ)の絵画まで使うという贅沢な世界。
「風の名前」というページには、「東風(こち)」「凱風(がいふう)」「かりわたし」 ・・・凱風にはまたしても葛飾北斎の絵画(凱風快晴)が登場しています。
「こな雪」の紹介ページにはふたたび、伊藤若冲の絵画「動植綵絵 雪中鴛鴦図(どうしょくさいえ せっちゅうえんおうず)」が紹介されています。
また、名作「てぶくろをかいに」の中に登場する「パンこのようなこなゆき」という表現も紹介されているので、読んだことがあるこどもなら「あっ!」っとなることでしょう。
「雪」に関する表現には、「牡丹雪(ぼたんゆき)」「花弁雪(はなびらゆき)」「雪帽子(ゆきぼうし)」などたくさんありますね。そのような表現にアンテナが立った状態で、本物の雪に触れられれば、こどもにとって素晴らしい体験になりそうですね。
まとめ
「日本のことばずかん」シリーズの紹介、いかがでしたか?
この図鑑をきっかけとして、日本語の美しさはもちろん、絵画の世界、本の世界に少しでも興味を持ったり、過去に触れた作品を思い出してもう一度読んでみたり、そんな興味や衝動がこどもの中に起こればとてもすばらしいと思います。
知識と知識がつながることのおもしろさを、こども自身が多く感じられる図鑑だと思います。